地方の仕事と時間

安心安全を求めて、いなか暮らしがしたいけれど、地方には仕事がなくて移住をためらう……という声を時々きく。

実際どうなのかと思い、調べてみると、週38時間勤務で、手取り10万くらいの求人はたくさんあるが、これから教育費がかかってくる子育て世代には確かに厳しいだろう。

地元の人は先祖代々の家や田畑、山を持っていて、食べるものや住むところにはほとんどお金がかからないので、そういう求人が多いのだと思う。

しかし、身一つとわずかな家財道具だけで頼るものもない移住者は、何もかも購入しないといけないから、給料のよい職を探さざるを得ない。

そういう場合は、都市生活者と同じく、企業との雇用関係を軸として、生活あるいは人生のすべてを展開しなければならなくなってしまう。

せっかく移住の一歩を踏み出したにもかかわらず、その実は、都市生活と何ら変わらず、場合によっては地方ゆえの辛い現実が待っているだけかもしれない。

地方の仕事の主役は企業ではなくて、豊かな自然と、それを持続的に利用できるワザを持つ個人であるように思う。

ぼくの活動する仲南地域では、ひまわりの他にタケノコが名産であり、タケノコ掘りのプロフェッショナルや、タケノコの処理機械、流通ルートなどがすでに確立されている。

しかし、その後継者はいない。タケノコの収穫は2~3ヶ月しかないので、年間を通じて専業で行うことができないからだ。そのうえ、収穫期には毎朝タケノコを掘ったら、湯がいて商品にしないといけないので、サラリーマンとの兼業も難しい。
そういう旬のものを扱う仕事では、季節ごとのサイクルで別の仕事をせざるを得ず、収入も月によって大きくばらついてくる。

香川県では通勤の容易さからか、地元の若い人は、みな昼間はサラリーマンとして勤めに出ているのが普通である。そういう人たちが、定年退職したあと、年金受給までの接続期間に、地域内の仕事をやるのが通常だが、やはり山仕事なので体力のある若い人にやってもらいたいようだ。

タケノコ掘りは竹林の保全と密接に関わっていて、これをおろそかにすると、再び人が入れる竹林になるまでに労力がかかるのと、獣の活動範囲をいたずらに増やし、獣害を招くから、誰かがやらないといけない仕事だ。
だから、そのために必要なものは何もかもそろっている。にもかかわらず、その仕事をできる人がいないのが、地方の問題であり、その原因の一部は、サラリーマンの雇用体系にあるのではないかと思う。

企業は、一日八時間労働を基準とし、年間を通して仕事を平準化することで、季節や自然に左右されない安定した雇用スタイルを生み出した。

しかし、それは言い換えれば、平日の八時間は企業のための労働に必ず従事しなければならないことであり、その結果として、企業とは関係ないところにある自然を舞台にした仕事とは、根底からあい入れなくなってしまった。
業務時間外に農業をすることを黙認しても、3~5月はタケノコ掘りがあるので、時短勤務したいという要望が通用する企業はありそうもない。

サラリーマンとして働くことが前提の都市から来る人たちが、地方の事情に詳しくないのは当たり前のことで、そこに都市での生活様式を当てはめてしまうことで、地方の収入の低さが強調されてしまうのは残念なことだ。

自然の中で生活する地方には、季節ごとの仕事が多い。そのどれもが、求人情報は出ず、地元の高齢者を中心におこなっていて、やる気のある若い人がいれば、施設や機械など貸したり譲ったりしてもいいと考える人も少なくない。

自然の中でそういうものを組み合わせて生計を立てていく人が増えれば良いのだが。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。