マコモダケ

マコモダケという作物がある。ドコモダケではない。
水田で作られる稲科の植物で、黒穂菌に寄生されて肥大した新芽を食べる。
9月下旬が旬だが、栽培するのにコツがいるようで、そんなに作られているものでもなく、1キロ当たり1000円で取り引きされている。

先週、まんのう町内でマコモダケを作られている農家の方にマコモダケをいただいた。県内で他にマコモダケを栽培しているところがほとんどなく、道の駅である仲南産直市のほか、高松からもわざわざ直接買いに来る人があるらしい。

その方が言うには、大口のお客さんから、マコモダケをたくさん購入するので少し値引きして欲しいと頼まれることがあるそうだ。けれども、値引き交渉には一切応じないとのことだった。
というのも、一度値引きに応じてしまうと、他の農家もそれにならって値引きせざるを得なくなってしまうためだ。
しかし、かといって大口の客が離れてしまうのも避けたいところ。
なので、どうするかと言えば、サービスでおまけをつけることにしているらしい。たとえば、90本買ってくれれば、おまけとしてもう10本を上乗せして、100本にする。値引きはできないが、農家=生産者なので、その辺の裁量は充分にある。
だから、買う方もそれを見越して、必要になる量よりちょっとだけ少ない量を注文する。そうすれば、必要量を実質的には何割引かで買えることになる。

この仕組みがおもしろいのは、あくまでも値引きではなく、無料のサービスでおまけを付けるということにしているから、販売する側としては値引き交渉には応じなかったという事実を守りつつ、大口購入者は実質的には割引価格で購入できる点にある。
大口顧客が他で買い物をするとき、あそこの農家さんはいくらまで値引いてくれたから、こちらも同じ値段で売ってくださいと言いふらされる心配もない。さすがに、おまけをよこせという人はいないだろう。
この話を聞いたとき、大岡裁きというか、とても粋だなと思った。
客を突き放しもしないし、かといって馴れ合いもしない。双方が納得する距離感というものをうまく保つ知恵が、残っているんだなと素直に感心した。
それは、生産者と購入者が限られた数しか存在せず、なんとか折り合いをつけながら、関係を維持し、商売を続けていかなければならない地域だからなのだろう。

しかし、これが『自由』な都市ならそうはならないと思っている。
都市では、販売者はもちろん、購入者や消費者も、星の数ほどいるし、その構成員もめまぐるしく変化していく。
販売する側は、お店の敷居や商品価格を上げて、いくらでも客を選択できるし、同じようなものを扱っている店はたくさんあるから、消費者の側もその店が気に入らなければ、よそで買えばいいだけの話だ。
そこには、一瞬限りの関係しかない。時に慇懃無礼な態度をとる販売者も、時に横柄な購入者も、それぞれがそれぞれの関係を使い捨てにし、二度と関わることもない。

それは、確かに都市の『自由』で気楽な一面に違いないが、また同時に、決して誰からも尊重されることのない都市社会の負の一面でもあり、他者との関係性をすべてを取り払ったむき出しの社会でしかないように思える。

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