先日、『美食礼讃』(海老沢泰久著)という小説を読みました。
辻調理師専門学校の創設者である辻静雄をモデルにした伝記のような小説です。
これによると、辻静雄は若い頃、フランスを始めとしたヨーロッパ中のミシュランの星付きレストランを巡り、その味を研究していたようです。
そしてその研究の成果は、調理師学校の生徒に還元され、ひいては本物のフランス料理を日本に広めた功績で、フランスから勲章も贈られています。
一番印象に残ったのは、辻静雄が彼の友人を招いたディナーパーティで、最高級の食材を用いて中華料理を出すシーンです。
そのディナーパーティでは、十人程度の客のために、料理人が香港へ行き、数十万円分(数百万円だったかも)の材料を購入し、さらに何十時間もの手間暇を掛けて調理したものが出されます。
それを知った友人の一人が、こんな贅沢な品を出して俺たちに成功した人生を自慢しているつもりか、こんな料理を注文できる客は誰もいやしない、そういう意味で誰にも口にされることのない料理を作って何になる、ラーメン一杯を数百円で出しているラーメン屋の親父の方がお前よりもよっぽど偉大だと怒り出します。
それに対して、辻静雄は何も言い返さず、じっと耐えるシーンが彼の人柄を表していて印象に残りました。