美食礼讃を読む

先日、『美食礼讃』(海老沢泰久著)という小説を読みました。

辻調理師専門学校の創設者である辻静雄をモデルにした伝記のような小説です。

これによると、辻静雄は若い頃、フランスを始めとしたヨーロッパ中のミシュランの星付きレストランを巡り、その味を研究していたようです。

そしてその研究の成果は、調理師学校の生徒に還元され、ひいては本物のフランス料理を日本に広めた功績で、フランスから勲章も贈られています。

一番印象に残ったのは、辻静雄が彼の友人を招いたディナーパーティで、最高級の食材を用いて中華料理を出すシーンです。

そのディナーパーティでは、十人程度の客のために、料理人が香港へ行き、数十万円分(数百万円だったかも)の材料を購入し、さらに何十時間もの手間暇を掛けて調理したものが出されます。

それを知った友人の一人が、こんな贅沢な品を出して俺たちに成功した人生を自慢しているつもりか、こんな料理を注文できる客は誰もいやしない、そういう意味で誰にも口にされることのない料理を作って何になる、ラーメン一杯を数百円で出しているラーメン屋の親父の方がお前よりもよっぽど偉大だと怒り出します。

それに対して、辻静雄は何も言い返さず、じっと耐えるシーンが彼の人柄を表していて印象に残りました。

ルワンダ中央銀行総裁日記[増補版]の感想など

少し前にニュースで取り上げられていた「ルワンダ中央銀行総裁日記」を読んでみました。

内容としては、日銀に20年以上勤めていた著者が、国際通貨基金に頼まれてルワンダ中央銀行の総裁になり、通貨改革を通してルワンダ経済を立て直すというノンフィクションです。

ニュースでは、著者の能力が高く、様々な障害を絶妙な采配で乗り越えていく様子が、まるで、主人公がチート能力で世界を救う、なろう小説の異世界転生ノベルのようだと紹介されていたのですが、まさにその通りでした。

著者が赴任した1960年代は、ルワンダは旧宗主国のベルギーを始めとした外国人が運営する最貧国の一つでした。

外国人優遇の金融政策がまかり通り、ルワンダ経済は外国人に支配され、物資の不足、物価の高騰などに苦しんでいました。

そんな状況の中、総裁は、外国人とルワンダ人との双方の対話を重ねて、解決策を探り、自分の仕事を通じて300万人のルワンダ人の未来のために改革に尽力していきます。

私は、こんな優秀な日本人がいたのかと感銘を受けました。

現代社会では、仕事というものは、個人の生活費のために仕方なくやることであり、最低限の労力で最大限の成果を上げて、不労所得だけで生活できることや所得の総額が大きいことが「優秀さ」の証しである風潮がありますが、著者は、金融に対して深い知識と経験を有し、フランス語と英語を操って現地と国際組織を巡って対話と交渉を重ね、労力を惜しむことなく、ルワンダ人のため、あるいは中央銀行総裁の名に恥じないような仕事ぶりを発揮していきます。

こんな仕事ができる人生をうらやましくも思い、また同じ日本人としてとても誇らしく思いました。

高校生や大学生などこれから社会人になる人に是非読んで貰いたい一冊だと思います。

以下、要点だけを知りたい人向けにあらすじを記載しておきますがネタバレになるので、ネタバレが嫌な人は読まないでください。

当時は、有能な外国人の支配者層と、無能なルワンダ人の被支配者層と考えられていましたが、総裁は外国人やルワンダ人との仕事や対話を通して、外国人は本当は無能であるけれども既得権益のために放漫経営でも十分利益をあげられていることや、ルワンダ人は真面目で有能であるにもかかわらず資金と技術が無いために自給的な生活を余儀なくされていることを看破していきます。

そこに活路を見出した総裁は、金融改革を通して既得権益を排し、有能な人材が活躍できる市場を作り出して、ルワンダ人の尊厳を取り戻し、経済を向上させるように尽力していきます。

私が面白いと思ったのは、総裁が采配を振るって、市場を牛耳っていた外国人をルワンダから排除せずに、代わりにルワンダ人にはできない工場の建設や経営などの多額の資金や技術の必要な分野に転向させることで、商売はルワンダ人、製造は外国人というように住み分けて共存できる体制にシフトしていくところです。